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執筆者の写真林院長

落とし物


秋の行楽に子どもを連れて動物園に行った。 爬虫類ばかりを展示した館内で、ヘビ柄の財布を拾った。その財布はベンチ横の植木に落ちていたので、何とも紛らしい柄をした財布で、あたかも館内のヘビが脱走したかと見間違うほどであった。落とし主は好き好んで爬虫類館を訪れるくらいだから、嫌気がさしてヘビ柄の財布を捨てたとは考えにくい。きっと落とし主は困っているであろう。館内のスタッフに届けたらよいのか、あるいは、最寄りの交番に届けたらよいのか悩んだ末に子どもの教育の為、交番に届けることにした。 『どうしました?』 『財布の落し物です。』 『どのような財布ですか?』 『ヘビ柄の財布です。』 お巡りさんは席を立ち、何かをとりに奥の方に入った。そして、奥の方から声がした。 『こちらには届いて無いようです。』 財布を届け出たにもかかわらず落とし主と見間違えられるとは・・。 『いえ、私は財布を届けに来ました。』 『失礼しました。』 その後、お巡りさんから拾得者には落とし主から報償を得る権利や落とし主が現れなかった場合、拾得物を得る権利があると説明があった。その権利を主張するかどうか問われた。落とし主の裁量で感謝の印として報償を頂くのは構わないのだが、まだ落とし主が現れる前から得たいと主張するのは何故か違和感を覚えた。まるで私が報償目当てで届け出たかにも捉えかねない。子供の手前、それではカッコ悪い。 『私は正しいことをしたまででそのような権利は・・』 すると、お巡りさんが財布の中身を確認し始めた。相当なお札が目に入り、思わず私は、 『権利を主張します!』 欲深い私に幻滅した瞬間であった。

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