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  • 執筆者の写真林院長

キリトル


その男は消音機能(ミュート)をONにしたままテレビを見ていた。ホラー映画を鑑賞する際、消音機能を駆使して恐怖を紛らわすことはあるが、その男が鑑賞していたのは歌番組のようである。その男は仮に自分が聴覚障害を来した場合、音楽番組が楽しめるかどうか試していると言う。かわいらしい女性アイドルが体をくねらせながら躍っている様子を見つめながら体を揺らすその男は踊りからイマジネーションが膨らみ、メロディーが視覚を通じて伝わると主張するのであった。因みに彼がリズムに乗っているその曲は誰もが知っている『フォーチュンクッキー』であった。

その男は少々イタリアにかぶれているところがあり、イタリア人はお釣りの精算の仕方が変わっているという。例えば、8ドル50セントの買い物に10ドル紙幣を渡したら、店員は8ドル50セントにいくら足せば10ドルになるかでお釣りを清算するらしい。お客に1ドル渡して9ドル50セント、そして、50セント渡して10ドルという具合に、お釣りの1ドル50セントを精算する。日本人であれば10ドルから8ドル50セントを引き暗算し、お釣りを清算するのだが、イタリア人は金勘定さえもマイナスはせず、ありとあらゆる物事にに対してポジティブでありたいというポリシーがあるらしい。その男はそのポリシーに感銘を受け、この先どのような障害が待ち構えていても悲観することなくポジティブでありたいと私に語った。

後日、私はその男が進行性の難聴を患っているということを伝え聞いた。

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